この本は、管理業務を完全になくして個人が活躍できる会社を作った株式会社ソニックガーデンの事例をまとめたものです。
どんな仕事においても「管理業務(マネジメント)」と呼ばれる方はいると思います。しかし、管理業務自体が会社の商品を生産しているわけではありません。そのため、「管理業務がないこと」が最も価値を生んでいる組織になると言えます。
特に昨今のエンジニアは単純業務ではなく創造的な活動を行っています。わたしもしばしば経験しますが、創造的な業務に対する管理とは日程管理のみで直接的な業務に対するサポートはできない場合が多いです。私自身マネジメントをしてみてこの点は苦労しました。ちゃんとアドバイスするためには一つ一つの業務に深く入っていく必要があり、バックグラウンドや顧客の性格なども含めて方針を決めていく必要があります。しかし、サポートするためにそこまで深入りすると他の業務が回らなくなります。結果的に、「業務の概要は知っているけど詳細はその人に任せる。一人前になるまでは自分の背中を見せてノウハウを学ばせる」という方針を取りました。苦肉の策であるこの方針がいい結果となるか不安でしたが、本書はその不安を解消し、自信を与えてくれた良書でした。
本書の中では、管理が必要となくなるための変化のプロセスが書かれています。実はこのプロセスは一人前の社会人になるのに必要な項目と同じです。要するにソニックガーデンのようなエンジニア企業だけでなく、各従業員がこのプロセスを全うしてレベルアップすることでどんな企業でも管理業務をなくせる可能性を秘めているということです。
世の中には管理業務をなくした企業は様々ありますし、世界のトップIT企業ではすでに管理業務は不要になってきています。
また、AIが業務をおこなう現代では、人が行うのは基本的に創造的な業務になっていきます。創造的な業務=管理業務不要と考えると、このムーブメントは管理業務を不要とする世の中になっていく可能性を秘めているのかもしれません。
以下、読書メモとして気になった点を記載しておきます。
管理業務をなくすためのレベルアップのステップ
本書では以下のステップで管理業務をゼロにしたソニックガーデンの10年間の実例をもとに書かれています。実際に悪戦苦闘したどり着いた結果のため非常に説得力のある内容になっていました。
- 生産的に働く(楽に成果を上げるために見直す)
- 自律的に働く(人を支配しているものをなくす)
- 独創的に働く(常識や習慣に従うことをやめる)
生産的に働くための「ふりかえりの週間」
日々の簡単な取り組みで生産性を上げていくことができるという事例の紹介でした。その中で明日からでも取り入れられる「ふりかえり」について紹介されていました。
「自分の業務/チームの業務をみんなで振り返ることで生産性を継続的に上げていける。さらに改善意識がチームに芽生えることでさらに生産性を上げていける。」とのこと。
KPTというフレームワークで、週に一回1時間、チーム全員でブレーンストーミング形式で始めるのがおすすめのようです。先週はわたしのチームでも実施してみました(全員リモート参加でしたがやってみると色んな気づきがあり、とてもいい振り返りになりました)
- Keep :よかったこと
- Problem :わるかったこと
- Try :次にためすこと
創造性の高い仕事では指示命令をしても成果が出ない
単純作業でないか限り、全てを事前に指示することはできない。たとえばデータ解析から資料作成する仕事では、データ解析をしていく中で方向性は変わっていくし、報告できる内容も臨機応変に変えていかなければいけない。
そもそもこれは自分たちのようなエンジニアだけの話ではない。なぜなら、最初から指示できる単純作業はすでにAIに切り替わりつつあるからだ。
そのため、全ての業種において同じような状況になることは間違いない。
セルフマネジメントのレベル
仕事 | 組織 | 自分 | |
Lv1(生産的に働く) | タスクを管理する | 周囲に伝える | 休息をとる |
Lv2(自律的に働く) | リソースを管理する | 周囲と協調する | 安定して働く |
Lv3(独創的に働く) | 価値を生み出す | 周囲を活かす | 将来を考える |
仕事、組織、自分という切り口からセルフマネジメント(自己組織化)をかんがえると、以下のような切り口であらわすことができる。特に新人の頃はLv1を達成できるよう様々なツールや知見を集めて駆使することが必要です。また、2, 3年目くらいになってくると、Lv2に向かっていき、早い人は3年目くらいにはLv3を達成していける。
セルフマネジメントができると、どんな組織でもやっていくことができる自信がつきます。自身の成長を見つめる基準としてもおすすめです。
そのモデルだとスケールしないんじゃないですか?
ソニックガーデンのビジネスモデルについての話。スタートアップ企業には事業の拡大が成功ととらえられるが、ソニックガーデンのビジネスモデルは俗人的な業務のため事業を拡大していくことが難しいように見える。そのためそのビジネスモデルは良くないのでは?という質問が来た様子。
たしかに拡大、成長することが資本主義の大原則でありスタートアップの成功でもある。しかし「資本主義の終焉」にもあったが、すでに社会全体としては満たされており、社会としてはスケールする隙がない状態にある。経済成長がとまった日本は皆さんどうでしょうか?住みにくいですか?毎日不安でいっぱいですか?おそらくほとんどの人がそんなことは無いと言うでしょう。実はスケールしなくてもそこに属する人々(国なら国民、会社なら社員)は今の状態が続けば幸せな状態なのです。そこまで成熟しているということです。
現在の会社が成熟し、自己組織化されていれば、スケールするかどうかだけが成否を決める基準ではなくなるのではないかと気づかされた。
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