日経サプライヤ生き残りのための方法論について記載された書籍です。CASEと呼ばれる自動車業界を取り巻く環境の劇的な変化を背景に、完成車メーカーだけでなく、部品を供給するサプライヤにも大きな変革の波がおしよせています。
とくに、これまでトヨタに代表されるように完成車メーカーに対してほぼ専属のサプライヤ(トヨタの場合はデンソーやアイシン)を配置し、一心同体で勧められてきた日本独自の「ケイレツ」開発が終わりを迎えています。
本書では、これからのサプライヤはケイレツに対する垂直開発だけでなく、非ケイレツ向けの水平開発をハイブリッドして推し進める必要であると説明している。さらにその具体的な進め方について7つの具体的な戦略を提案している。
この10年で一気に複雑化した自動車開発におけるサプライヤの立ち位置は以前にもまして重要になっている。あまり表舞台に出てこないサプライヤにフォーカスを当てた珍しい書籍だが、サプライヤ向けコンサルタント会社からの出版とあって、非常に知見にとんだ良書。
では、ここからは本書の中から気になった点や学びについて記載していきたいと思います。
日系サプライヤの強みと弱み
各技術領域について日経メイカーのシェアから強みと弱みについて言及。
【強み】異種技術組み合わせ、顧客ごとのカスタマイズが必要な領域
歴史的に日本のサプライヤはケイレツによる垂直開発を行っていたことから、顧客に対してのカスタマイズには慣れている。
また、異種の技術を組み合わせる必要がある部分でも、ケイレツで培った「すり合わせ」の力が大きな強みとなっている。
この領域は、メカトロ部品のような複雑な商品が多く、これからの発展が見込めるものが多い。
そのため、日経サプライヤは今後のトレンド商品に対して構造的に優位だといえる。
【弱み】単純部品やソフトウェア性能にのみ依存する領域
単純成型部品やソフトウェア単体開発は価格競争に陥りやすいため、日本の弱い部分である。
ケイレツ/非ケイレツのハイブリッド開発の進め方
ケイレツ、非ケイレツで以下のような開発方針を分けることで、サプライヤとしての技術を高めつつプレゼンスも高められる。
- ケイレツ :OEMと蜜に連携しコア技術を玉成する
- 非ケイレツ:非コア技術を展開。ただし、OEMごとにカスタマイズ。また、カスタマイズできるようモジュール化しておく
※コア技術が出来上がり、次のステージに進む際には、コア技術→非コア技術となるためモジュール化を実施
日系サプライヤがとるべき「7つの戦略」
グローバルプロジェクトマネージメント体制の確立と企画・開発機能の移管
特にADASや熱マネジメントシステムのグローバル各地域における要求/トレンドはそれぞれ異なるため、各地域で独自の決定権をもった開発体制が必要。
現在、各国に拠点があるが決定権は日本にある「多国籍企業」状態。そうではなく、「グローバル企業」となることが必要。
開発プロセスへのデジタル導入
複雑化する開発を簡素化していくためにMBDを導入することが必要とされる。
特に非コア技術を非ケイレツ向けにカスタムできるようしていく場合には、開発リソース削減のために重要な施策。
事業部を横断した体制の構築
システム・ソリューションを提案していく場合、一つの事業部ではなく複数の事業部が協力して開発を実施する必要がある。
部署、ではなく、プロジェクトチームが必要になる。
グローバル生産・地域ガバナンス体制構築
顧客OEMがグローバル化する中、現地調達の意向も強まっている。
生産拠点をグローバル化することで、タイムリーな対応が可能になるだけでなく、一地域の災害等に対するリスクマネジメントにもなる。
成長に向けた新規事業の開発
CASEの発展によってこれまでに築いてきた事業が成り立たなくなる。例えば電動化によってエンジン部品サプライヤは仕事が激減する、等。これまでの強みを生かしつつ新しい事業に取り組む必要がある。
オープンイノベーションやCBCの導入と新たな事業エコシステムの形成
加速化する技術開発領域において、自社だけの視点では、すでに陳腐化したコア技術に開発リソースを割いてしまう可能性がある。
世界の動きの中でタイムリーに、自社のコア技術と非コア技術を見極めていくためにはコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)などを効率的に利用していく必要がある。
また、利益が得られるかわからない新規事業領域に対して、これまでのつながりをうまく活用しOEMと協力してエコシステムを形成することで、開発に注力することができる。
M&Aによる業界再編
コンピタンス集約が求められる領域で実施が必要な見込み。
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