ファクトフルネス (2018.10.10 ハンス・ロスリング著)

読書

世界はだんだん悪くなっている、という悲観的幻想が蔓延している。

現実には、貧困は減り、初等教育の修了率は向上し、平均寿命は伸び、世界の全ての地域で生活水準は向上した。

この書籍では、その事実をデータから明示的に示すとともに、なぜ多くの人が事実に反して悲観的な思想に陥っているかを、人間の本能の面から解説している。

もちろん悲観的ニュースのほうがドラマチックなので、報道されて認知しやすいということもある。

※悲観的なニュースがドラマチックになるのは、通常時はいいことが溢れているからではないだろうか。ニュースになることとは現在から変化したことである。変化にはプラスとマイナスがあり、通常時はプラスに変化する社会においてドラマチックな(=珍しい)出来事はマイナスの変化である。ネガティブなニュースが多い社会は、実はプラスに変化して行っている社会なのではないか。(例えば戦時中は、敵艦を破壊した!というプラスの出来事がニュースになっていた)

ただ、世界の進歩に対する様々なデータに日々アクセス可能な知識人たちも、世界はだんだん悪くなっているという誤認をしている。

ちなみに、世界はだんだん悪くなっている、というのは、「自分の周りは良くなっているが、貧困地域を含む世界全体としては悪くなっている」という意味だと思う。

所得と人口

レベル1は、1日2ドル以下で暮らす人たち。現在およそ10億人。
レベル2は、1日2〜8ドル以下で暮らす人たち。現在およそ30億人。
レベル3は、1日8ドル〜32ドル以下で暮らす人たち。現在およそ20億人。
レベル4は、1日32ドル以上で暮らす人たち。現在およそ10億人。

15歳未満の子供の人口

増加を続けてきた子供の人口は現在20億人となった。2100年になったら何人になるだろうか?

答えは20億人。現在から増えない。

ではなぜ子供が増えなくなるか?

そもそもなぜ子供が増えるかというと、貧困もしくは子供の生存率が低いために多く産んでいるからである。子供は、貧困地域では労働力であり、また免疫力や体力面から、大人よりも生存力は低い。そのため、レベル1の貧困地域では5〜8人に登る。

逆にそれ以外(レベル2〜4)の地域では平均2人であるため、人口増加がない。

レベルが上がると、労働,生存,教育の面で以下の3点の変化が起こり、子供の出生数は必然的に減少する。

  1. 生活が裕福になり労働力としての子供は不要もしくは少なくて良い
  2. 子供の生存率上がるため、少なくて良い
  3. 子供の教育にお金を使えるようになるので、少人数であればまかなえる

よって、貧困から抜け出すことで、子供の数は減り、自然と人口は収束していく。

人口について

この100年で人口は急増した。2017年で76億人、今後ずっと増加は続くのか?答えはノーである。2100年の人口は110億人の予想。これは、子供が増加しないからだ。

数字を見るときに注意したいこと

80・20の法則

物事を集計したときに、上位20%の項目が全体の80%を占めていることが多いという法則。多くの項目が並んでいても全てを見る必要はない。上位だけ見れば全体像が見える。

「一人当たり」で見る

集計された数字は、単独の数字で見るのではなく割り算してから見る。例えば、CO2の排出量を国別にまとめた表を見る時は、人口で割って「一人当たり」の量で見ると、正しい意味がわかる。

他の人をアホだと決めつける愚かさ

自分の経験から他の人をアホだと決めつけてしまうことが間々ある。特に自分とは異なる(と自分が勝手に無意識に決め込んだ)分類に属する人に対してはしょっちゅう発生する。例えば違う国の人(国分類)、部下(階級分類)などがそうである。

相手の出した結論に対して、思慮不足!と思い込み指摘することは簡単だ。ただ、実際は思考能力に差なんて無くて、思考する方向が自分と異なるだけである。大きさは同じ、ベクトルが違うだけ。

結論を自分のベクトルに合わせたい場合は、相手の結論を理解した上で、必要な分を自分のベクトルに上乗せしよう。

重要なのは、相手はアホだから自分の期待値に届かないのでは無く、能力は同じだがベクトルが違うと理解すること。そして、時には、実は自分のベクトルが正しくないのでは?と気づく手がかりとすること。

自分の意見に合わない新しい情報を進んで仕入れる

自分で学べる範囲は限られている。自分の意見はいつでも自分の学んだ知識の中から作られる。しかし、学べる範囲は限られているのだから必然的に間違った意見を持つ場合もある。自分の専門分野に絞ったとしても同様だ。

そこで重要なのは、「自分の意見に合わない情報」だ。自分が見逃していたり学んでいない範囲から学びを得た人が発信したものの場合、自分の意見に合わないかもしれない。ただ、それは自分が知らない事実を元に構築された素晴らしい意見なのだ。

数字がなければ世界を理解できない。でも数字だけでは世界はわからない。

数字は世界の輪郭を表しているかもしれない。ただ、この世の全てのことを数値化できるわけじゃない(幸福度とか)。

モザンビークの首相だったパスコアル・モクンビは、毎年のメイデーに人々が履いている靴を見て、前年からどれだけ豊かになったかを見ているそう。

数値ではわからないことはたくさんあることを心に留めて数字と向き合っていくべきだと気づかされる。

犯人探し本能は安易な結論に陥る

何か悪いことがあった時、犯人を探してしまう。誰かひとりの犯人を見つけ、その人に制裁を加えることで物事を解決したように感じる。だけど、それだけでは根本的な解決にはならない。なぜ犯人がそう行動したか、なぜそうさせたのかを考え、その背後の原因に迫る必要がある。そうすることで根本的な原因を解決できるのだ。

トヨタ自動車の「なぜなぜ分析」は、なぜを5回繰り返していくことで本当の原因にたどり着けるというものだ。しばしば5回も繰り返す必要がない場合が多いが、それでも最初に「なぜ」と問いかけることは、犯人探し本能から逃れる重要な方法だと思う。

ガイジンに対する排他的姿勢は日本特有ではなく人類共通

私も日本人はガイジンに対して他の国より排他的だと思っていた。何かこれといったことがあるわけではない。しかし島国であること(現代において海の国境が陸の国境よりも人の流入を抑えるなんてことはないのだが、、)で他の国の人と差別感が強くなり、クラスに外国人が居ようものならイジメの標的となったりした。

私の狭い価値観で、これは日本特有なんだと思っていた。だけど、昨今スポーツの世界ではハーフや帰化した方々が素晴らしい成績を上げ、それを日本人の仲間として分け隔てなく祝う風土が出来てきた。

逆に海外ではアメリカのトランプ大統領がメキシコ人を排他し、ドイツは難民の受け入れを拒否している。中東のイスラム教とは皆IS予備軍のように認識され、難民ビザもなかなか給付されない。

心配すべき5つのグローバルなリスク

筆者は本書中で以下5つのリスクについては実際に起こる確率が高く(起きたことがある、もしくは現在も進行している)、人類の進歩を止めうるリスクであるとのこと。

  1. 感染症の世界的な流行
  2. 金融危機
  3. 世界大戦
  4. 地球温暖化
  5. 極度の貧困

コメント