こんにちは、しらすです。
イエール大学助教授でデータ科学者の成田悠輔さんによる、これからの民主主義の形を思案した書籍です。タイトルが面白くて思わず購入してしまいました。
科学技術が急速に発達した現代において、旧態依然とした「選挙」「政策決定」などの構造をどうやって変えていけるかについて、専門家の視点から非常に斬新かつ先進的な提案も載せられており、非常に勉強になりました。また、人口構成などデータに基づく現在の民主主義体制の維持の難しさについても触れられており、民主主義について考え直すいい機会になりました。
格差と弱者を作る資本主義と弱者を救う民主主義
勝者を放置して徹底的に勝たせるのがうまい資本主義は、それゆえ格差と敗者も生み出してしまう。生まれてしまった弱者に声を与える仕組みが民主主義だ。
(中略)
二人三脚の片足・民主主義が、しかし、重症である
p.10
弱者やマイノリティ(若者、1人親、LGBTQ、など)を救うのが民主主義と本書では定義される。よって、民主主義の復活とはすなわち弱者やマイノリティの声が届くことである。結果、理想的な政策とは、マイノリティの人が喜ぶ政策である。
ここで、「マイノリティが喜ぶ政策は本当に歓迎すべきことなのか?」を考えてみる。
まず大前提として、すべての人が幸せな政策は存在しない、と仮定する。この仮定に基づくと、マイノリティが喜ぶ政策はマジョリティが喜ばない政策かもしれない。
全体最適を考えた場合、数で優るマジョリティが喜ぶ政策が望ましいのでは??
そもそも民主主義は”弱者”救済の体制なので全体最適はできないのでは??
これについて「多様性」の面から反証を考えてみよう。企業発展でよく言われるが、「多様性が高いこと」は発展に向けて非常に重要だ。様々な視点から意見を得ることが出来るため、多様性が高い組織は変化に強く安定した成長を期待できる。そのため、マイノリティが喜ぶ政策を意見として入れてくことで国、ひいては地球規模で人材の多様性を高めることが出来、発展できる。結果、マジョリティも間接的にメリットを享受できるのではないか。
民主主義の劣化
SNSの勃興により、凡人である民衆が力を持ったことで、民意の忖度する政治家は思い切った決断をしなくなった(しない方が最大派閥の平均的凡人層の有権者に喜ばれる)
民主主義的な国ほど経済成長が鈍化している
各国の民主主義度合いと経済成長率の関係を見ると、負の相関があるとのこと(民主主義的な国ほど経済成長率が低い)。
30歳以下の有権者はそもそも13%程度しかいない
全員選挙に行っても全体に対して13%しかおらず、結局影響力は小さい。選挙というゲームで戦っている限りは勝てない。
あらゆるゲームで負けない方法は、相手が決めたルールでゲームをしないことである。
高齢化と人口減少が世代間対立と組み合わさる
人口減少と高齢化という新しい潮流が世代間対立という古い伝統に流れ込むとき、シルバー民主主義という荒々しい潮流が生まれるわれだ。
p.92
高齢者が有権者の大部分である。また、普通の人間は自分に直接メリットがある政策を立てる人を好きになる。
この2つの組み合わせにより、高齢者に有利で若者に不利な政策が作られていく。結果、余命の短い高齢者に有利な短期的/近視眼的な政策が行われる。
解決策の模索
民主主義とはつまるところ、みんなの民意を表す何らかのデータを入力し、何らかの社会的意思決定を出力する何らかのルール・装置である
p.164
よくあるアルゴリズムであるIPOの構成だ。input、output、Processingの3つのパートに分かれる。inputは民意、outputは政策や施策(税金で行われる活動)、Processingは民意を政策に反映する方法である。
一般的な出力の精度をあげるためのAI開発プロセスに落とし込むと、1.inputの精度をあげる、2.Processingのアルゴリズムを高度化するの二つに分けられる。
inputの精度を上げる
まずやるべきは、民意や一般意識に関するデータをもっと解像度高く、色んな角度から取ることだ。
p.168
最新のデータ計測技術を用い、既存の「投票」だけでなく、以下の3つを計測し分析することでinputの解像度をあげる(民意の取得回数を上げる)と共に、次元を上げる(様々なシーン/角度での意見を聞く)。
1. 選挙の声を聞く、2.会議室の声を聞く、3.街角の声を聞く
これはアンサンブル学習、ブースティングなどと呼ばれる手法である。高解像度かつ多角的なinputとアンサンブル学習により個々のデータに含まれる歪みを打ち消し、より鮮明に民意を反映する。
Processingの高度化
意思決定アルゴリズムのデザインは次の二段階で行われる。
(1) 各論点・イシューごとに、まず価値判断の基準や目的関数を民意データから読み取る。(中略)
(2) 次に、その価値判断・目的関数にしたがって最適な政策的意思決定を選ぶ。
p.185
機械学習において(1)は学習、(2)は推定そのものである。現状では(1)はほとんど行われていないし目指されてもいないとのこと。
政策がアルゴリズムで決定される未来で政治家はネコになる
間接代議民主主義で政治家が担っている役割は主に二つある。
(1) 政策的な指針を決定し行政機構を使って実行する「調整者・実行者としての政治家」
(2) 政治・立法の顔になって熱狂や非難を引き受け世論のガス抜きをする「アイドル・マスコット・サンドバッグとしての政治家」
私は「調整者・実行者としての政治家」は、ソフトウェアやアルゴリズムに置き換えられ自動化されていくと思っている。そして「アイドル・マスコット・サンドバッグとしての政治家」はネコやゴキブリ、VTuberやバーチャル・インフルエンサーのような仮想人に置き換えられていくと読んでいる。
p.219~220
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